【本の魅力再発見!】『ラファエッロの秘密』

イタリア文化会館では、新型コロナウイルスの感染拡大防止措置に伴う休校、テレワーク、外出自粛により在宅で過ごす方に向け、毎週水曜日スタッフがお勧めのイタリアに関する本を紹介します。 今日皆さんに紹介するのは、 コスタンティーノ・ドラッツィオ の『ラファエッロの秘密』(上野 真弓 訳 、河出書房新社、2019年)です。

「ラファエッロ・サンツィオは、『画家というよりも、王侯貴族のごとく生きた』。」(本文より抜粋)

1520年4月6日、ルネサンスを代表する画家、建築家のラファエロ・サンツィオがローマで亡くなった。没後500年というメモリアルイヤーの今年、ルネサンス期を代表するこの巨匠を回顧するイベントが世界各地で行われている。

みなさんは、37歳の若さでこの世を去ったラファエッロが、万人の認める天才ミケランジェロからひどく憎まれるほどの野心家であったことをご存知だろうか。

ラファエッロは、彼の作品に見られる明るい背景、澄んだ空、人物像を彩る鮮やかな色彩からは想像もできないほど、野心に溢れていた。必要とあらば、尊敬する芸術家の作風を剽窃することも厭わない。しかし常に一定の慎ましさを保ちながら、いかなる妬みも引き起こすことなく、ローマ教皇をはじめ絶大な力を持つパトロンと関係を深め、富を蓄えてゆく。そうして同時代の画家たちを置き去りにしながら、イタリア画壇の頂点であるローマの地で栄光の階段をかけのぼる。

この本では、ラファエッロの重要な作品一つ一つを、同時期に描かれた他の画家の作品などと比較しながら丁寧に見ていく。彼が当時最先端であった技術を瞬く間に吸収し、それをどのように自分流の表現に落とし込んでいたのかが、政治情勢、他の画家やパトロンとの駆け引きなどとともに詳細に描かれる。そして他の画家と明確な対比で、ラファエッロの抜きん出た才能をこれ以上ないほどに浮き彫りにさせていて、非常にわかりやすい。

本著は、各種メディアで活躍中の美術史家コスタンティーノ・ドラッツィオによる、イタリアで大人気の秘密シリーズ三部作で、カラヴァッジョ、レオナルドに続く、シリーズ最終巻。専門用語ばかり並ぶ学術書ではなく、西洋美術史の知識がなくとも興味深く読める内容となっている。全くこぼれていない「こぼれ話」にもご注目あれ。

読み進むにつれ、「今すぐローマへ赴いて作品をこの目で見たい!」と思わせてくれる一冊。

コスタンティーノ・ドラッツィオ (Costantino D’Orazio)

1974年生まれ。美術史家&随筆家。ローマ現代アート美術館(MARCO)の展覧会キュレーターを務めるほか、イタリア国営放送で国内の芸術作品を紹介する番組を担当するなど、多方面で活躍している。『カラヴァッジョの秘密』は著者の〈秘密シリーズ〉第一作で、イタリアで大きな成功を収めた。続いて『レオナルド・ダ・ヴィンチの秘密 天才の挫折と輝き』があり、『ラファエッロの秘密』はこのシリーズ最終巻となる。

上野真弓(Mayumi Ueno)

1959年生まれ。成城大学文芸学部芸術学科(西洋美術史専攻)卒業。1984年よりローマ在住。翻訳書に『レオナルド・ダ・ヴィンチの秘密 天才の挫折と輝き』『カラヴァッジョの秘密』がある。ローマの生活や芸術を紹介する人気ブログ「ローマより愛をこめて」の管理人。

(H.)

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